料理をしない友人がくれた、重たい紙袋
「これ、みさっぺなら使ってくれると思って」
先日、友人からずっしりと重い紙袋を渡されました。
中に入っていたのは、
愛知県碧南市が誇る九重味淋の「九重櫻(ここのえざくら)」。
正直、少しドキッとしました。
なぜなら私の家のキッチンには、
長年「三州三河みりん(角谷文治郎商店)」が鎮座していて、
私はそれに絶大な信頼を置いているからです。
「私は三河みりん派だから」と、心の中で小さな防壁を作っていたくらいです。
でも、この九重櫻をくれた友人は、一人暮らしでほとんど料理をしません。
仕事関係の方から頂いたものの、
「私には猫に小判だから」と、料理をする私の顔を思い出してくれたそうです。
その気持ちが嬉しくて、
そして、使われないまま眠るみりんが可哀想で、ありがたく頂くことにしました。
これも何かの縁。
長年のパートナー(三河みりん)には申し訳ないけれど、
今日はちょっと浮気して、この老舗の味と向き合ってみようと思います。
ラベルの「佇まい」に見惚れてしまう
キッチンに持ち帰り、袋から出して窓辺に置いてみました。

うーん、悔しいけど美しい。
この琥珀色の液体が光を通す様子は、
調味料というより、まるで上質なウィスキーか香水のようです。
そして、DTPオペレーターとして文字を扱う仕事をしているせいか、
ついラベルの細部に目がいってしまいます。
和紙のような手触りの紙に、金色の箔押し。
そして「九重櫻」の筆文字。
余白の取り方も絶妙で、派手すぎないのに、
明らかに「私はそこらの調味料とは格が違いますよ」というオーラを放っています。
スーパーの棚で安売りされている、テカテカしたラベルのボトルとは違う。
「伝統を守る」という覚悟が、デザインの端々から滲み出ているんですよね。
こういう「佇まい」が良いものをキッチンに置くと、
不思議と雑に料理ができなくなります。
背筋がピンと伸びるというか。
恐る恐る、「原材料」を確認してみる
「美しいのは分かった。でも、中身はどうなの?」
そんな意地悪な目線で、裏側のラベルを覗き込みました。

- もち米(国内産)
- 米こうじ(国内産米)
- しょうちゅう(国内製造)
……参りました。
完璧です。
余計な混ぜ物が一切ない。
糖類も酸味料も入っていない。
私が普段、食品のパッケージ裏を見るときに一番警戒している「よく分からないカタカナの成分」が一つもないんです。
50代になって、若い頃のように無理が利かなくなってきた自分の体。
だからこそ、毎日口にするものはシンプルであってほしい。
その私の願いを、このラベルは無言で肯定してくれました。
飲んでみて分かったこと
料理に使う前に、どうしてもやりたかったことがあります。
「本物のみりんは、飲むのが一番美味しい」という説の検証です。
スプーンに少し垂らして、そのまま口に含んでみました。
……あ、違う。
私が知っている「みりん」と、少し違う。
普段使っている「三州三河みりん」が、
もち米の甘みがドカンと濃厚にくる「田舎のおばあちゃんの家」のような懐かしい温かさだとしたら、
この「九重櫻」は、もっと洗練された「料亭の奥座敷」のような味がします。
甘いんです。
間違いなく甘い。
でも、べたつかない。
スッと喉を通ったあとに、上品な香りが鼻に抜けていく感じ。
「ああ、これは煮込みすぎてドロドロにするのは勿体ないかも」と直感しました。
- こっくり煮込みたい日は、いつもの三河みりん。
- 素材の色を活かしたいお吸い物や、ちょっといい和食を作る日は、九重櫻。
そんな贅沢な使い分けが頭に浮かびました。
【結論】どちらも「愛知の宝」だった
「浮気」なんて言いましたが、
結局のところ、私は愛知のみりんが好きなんだと再確認しました。
今回、友人が私に回してくれなかったら、
私は一生、食わず嫌いで九重櫻を手に取らなかったかもしれません。
料理をしない友人が繋いでくれたご縁のおかげで、
私のキッチンの景色と、料理のレパートリーが少し広がりそうです。
もし、この記事を読んでいるあなたが「料理なんて面倒くさい」と思っているなら、
このみりんは買わないでください。
きっと持て余します(私の友人のように)。
でも、「食べることは生きること」だと感じている人や、
年齢とともに「体にいいもの」を求めている人なら、
この琥珀色の雫は、きっと毎日の料理を少しだけ幸せにしてくれるはずです。
とりあえず今夜は、この九重櫻を使って、砂糖を一切入れない 肉じゃが を作ってみようと思います。
どんな上品な味になるのか、今から楽しみです。
ふつうの日々 