宮本浩次の『rain ‑愛だけを信じて-』を聴いた夜に

武道館を出たとき、夜の風はまだ熱を残していた。

人の波に混じって歩きながら、みんな同じ余韻を抱えているんだなと思った。

音が消えたあとの静けさって、かえって心の中の音を大きくしたりする。

「ばかやろう」って心で叫んでみたけど——。

歌い出した瞬間、怒りでも悲しみでもなく、どうしようもない何かを抱えたまま、ただそこに立ち尽くしている人の姿が見えた気がした。

宮本浩次の歌は、やさしく慰めてはくれない。

気持ちを代わりに言葉にしてくれるわけでもない。

それなのに、不器用なくらい真っ直ぐで、聴いていると「ああ、生きてるんだな」って、その痛みをそっと思い出させてくれる。

“何も変わらない明日の景色”の中で、それでも何かを信じたいと思ってしまう。

たとえそれが叶わない祈りだったとしても。

静かに降り続ける雨みたいに、心のどこかで何かを洗い流したいと願っているのかもしれない。

ホテルの部屋に戻ると、窓の外には相変わらず街の灯りが広がっていた。

あの光の下で、たくさんの人がそれぞれの「rain」を抱えて生きている。

誰かに届かなくても、うまく言葉にできなくても、歌に触れた夜は、ほんの少しだけ世界がやさしくなる。

そして真っ直ぐな日本語が、今日も静かに心に降り続けている。